木曜日の貴公子と幸せなウソ


他人から見れば、何てくだらない事だろうと思うかもしれない。

でも、今の私にはそれすら重要な事に思えてくる。

少しでも先輩の上に行きたかった。

私は負けたわけじゃないんだって……。

助手席に乗り込み、シートベルトをしめると、車はゆっくり走り出した。


「あの、どこに行くんですか?」

「何食べたい?」

「別に、何でも……。それより、パスケース返して下さい」

「パスケースはオレの家」

「……はあ?!」


私は先輩から押し付けられた一万円札をペンケースから取り出した。

それなのに、私のパスケースは先輩の家だと、ふざけた事を言う……。


「何で置いて来たんですか?返す気ないわけじゃないですよね?」

「大事なモノだからなくしちゃマズいだろ?それに、夕飯終わったら元々家に連れて行くつもりだったし」

「な……」


家族が待つ家に私を連れて行くつもりとか、どういう神経しているのよ?

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