木曜日の貴公子と幸せなウソ


「くんちゃんは、エミのパパじゃないよ」

「……え?」

「エミのパパ、お仕事で遠いところにいるの!」

「えっ?……え?!」


エミちゃんのパパは……仕事で遠いところにいる?

どういう事?

だって、先輩は婿養子で片山姓になって……。


「エミ、話終わった?」

「あ、くんちゃん!かえろー!」


一向に来ないエミちゃんにしびれを切らしたのか、先輩が中央玄関へと来た。

声をかけられて、エミちゃんは先輩の方にピョンピョンとはねていく。


「……パパじゃないの?」

「……ああ」


浮かれたように園庭にスキップしていくエミちゃんの後ろ姿を見つめながら、私は先輩に問いかけた。

先輩は伏し目がちに、低い声で答えた。

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