木曜日の貴公子と幸せなウソ


正直なところ、先輩のせいでトラウマになったと言ってもいい。

あれ以来、人を好きになるのが怖くなってしまった。

自分の方に気持ちが向いてくれたとしても、また騙されてしまうんじゃないかって。

その気持ちは偽りで、本当の気持ちは別の所にあるんじゃないかって。

疑ってばかりで、信じる事ができなかった。

結局、先輩との恋が終わって以来、誰とも付き合っていない。

そのトラウマの元凶が、まさか園児の保護者として目の前に現れる事になるとは思ってもみなかったけど。



車は一軒のイタリアンレストランに着いた。

白い建物のおしゃれな造り。

月曜の夜のせいか、停まっているのは先輩の車1台だけ。


「いらっしゃいませ」

「2名で」

「かしこまりました。奥の席へどうぞ」


店内も数人のお客さんしかいない。

店員に奥の席に案内される。

個室ではないけれど、柱の影になっているせいか、他からは見えにくい。


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