ちっぽけな距離
「ん…」

あー、なんかよく寝たー。

俺は背伸びをして、リビングへ行く。

今何時だ⁇

「…まだ1時か…」

…あず寝てるよな。

つーか外やばくね⁇

めっちゃ雪降ってるし。

絶対明日積もるだろ。

「あれ⁇起きてたの⁇」

そこにやって来たのは風呂上がりの母さんだった。

「あぁ。目が覚めた」
「ご飯あるけど」
「いいや。明日朝食べる」
「そっか」
「姉貴は⁇」
「んー、お姉ちゃんなら自分の部屋でまだ起きてるでしょ」

まぁ、特にはどうでも良かった。

「うわ、すごいね外。このままだったら明日は積もるね」

俺が思ったことを言う母さん。

「まぁ…だろうね」
「京、元気ないけどどうした⁇」
「いや。なんも」
「なにもってないことないでしょ」
「別に」

すると

「あれっ、まさかのお揃いですか」

と、姉貴がやって来た。

「知快も⁇」

と、母さんは言う。

知快(ちよ)とは、俺の姉貴の名前。

「まあね」
「じゃあお母さんもう寝るけど、あまり遅くならないようにね」
「はーい」

返事だけはいいやつ。

母さんはリビングを出て行った。

姉貴は俺の隣にドンっと座る。

「もう、なんなの」
「ん⁇ところで京⁇」
「…なに」
「梓ちゃんのこと、本当は好きなんでしょ」
「もうその話はいいじゃん、あずの話は」
「いいから。好きなの⁇それとも他に好きな人がいるの⁇答えなさい」
「…ねぇよ…」
「ん⁇」

はあ…ったく…

「他とかいねぇって…」
「ふっ。だと思った」
「うぜぇ…」
「ちゃんと気持ちは伝えたの⁇」
「そんなんじゃ…ねぇよ」

あずは俺のことなんとも想ってねぇよ⁇

「うわ、それこそだせぇよ」
「だーまれ。伝えられるわけないだろ⁇」

そんな勇気、どこにもない。

「なに弱気になってるの。またそうやって、京は逃げるの⁇自分の気持ちから」
「…なんだよ」
「前もそうだったじゃん。サッカーだって結局は逃げたんでしょ」
「…逃げたかもな」
「逃げたってなにも得なんかしない。それで得したつもりならただの自己満足。京はそれで良いわけ‼︎⁇」
「なにも得はしないかもだけど、諦めたから今があるんじゃん」
「逃げんなって言ってんの。現実見ろ」

姉貴は俺にそう言う。

「は⁇」
「じゃないと。絶対後悔する」
「姉貴に俺の気持ち分かるかよ。そんな、俺の勝手で大切な奴失うくらいなら、伝えない方がマシ」
「じゃあ、京は梓ちゃんのこと大切だけど信じてないんだ」
「…」
「小さい頃から一緒にいたのにまだ分かんないの⁇なにそれ。幼なじみって本当は羨ましいんだよ⁇」
「え⁇」
「梓ちゃんは絶対、京の気持ちに応えてくれる。し、結果がどうであれ梓ちゃんを失わない」
「…」
「そんなんで崩れちゃうなら、今までも無かった方が良かったんじゃないの⁇…もっと、考えなよ。逃げ道ばっか作んないで」

そう言って姉貴はリビングを出て行った。

『そんなんで崩れちゃうなら、今までも無かった方が良かったんじゃないの⁇…もっと、考えなよ。逃げ道ばっか作んないで』

だよな…。

この16年間ずっと一緒に生きてきた。

辛いことも楽しいことも全部お互い話して分け合ってた。

だけどそれは小さい頃。

大人になればなるほど余計なことを考えてしまう。

そして、お互い遠慮を知る。

普通の友達ならあずの側にいたいって思うし、会いたいって気持ちは生まれると思う。

けど、いつも側にいられるし会いたい時にはすぐ会いに行ける距離。

普通とは違うんだ。

それは得なことか、それとも損か。

自分でもよくわからない。

だから。近いから

よく分からないんだ。

そして、失って傷つく確率が高い。
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