ちっぽけな距離
side 京

「あっち行ったぞ‼︎」

陽は一人で叫ぶ。

「あのさ、キツイんだけど」
「王子‼︎もっと本気だせよ‼︎チンタラ走るな‼︎」
「あ、いや…ここ、廊下ね⁇」
「廊下なんざ関係ない‼︎」
「いや、先生にバレたら叱られるって」
「廊下は走るために出来てるんだ」
「なんでだよ‼︎なんか可笑しいぞ今日」
「うっせ‼︎春樹どこ行きやがった」

春樹足速いもんな。

「もうさ、ここはひとつ春樹に任せよーぜ。俺、あずが待って…」
「いいや。それではだめだ」
「は⁇」
「桃ちゃんに、良いところ見せなければ。俺が捕まえたって」
「はー⁇だったらお前一人で…」
「無理だ‼︎…俺には叶わん」
「…」
「だから王子の足が必要だ」
「春樹だけで十分だろ」

もう、キツイって。

疲れてんだよこっちは。

「いや。もしも捕まえれたとしても、逃げられるペースが多い。どうせなら人数が多い方が…」
「陽、お前も真面目にしろよ‼︎」

絶対なにもしないで自分が捕まえましたみたいな後から言うパターンだろ。

「俺だってなぁーっ‼︎足がもっと速かったら…もう王子、先行けよーぅ」

あれは…

ん、そうだ。

確かあの道を曲がれば…

そうだ。

「ちょっと陽、来い」

俺は陽の裾を引っ張ってさっきと走ってた方向の逆を走る。

「おい王子‼︎⁇また戻ってどうすんだよ‼︎逆‼︎逆‼︎」

喚く陽。

説明も陽には届かないか。

「聞いてんのか王…」
「しっ」

俺は一旦陽を黙らせる。

「…⁇」

そう。

確かあいつが曲がった道には裏があった。

この角を曲がれば…‼︎

「いたぞ‼︎捕まえろ‼︎王子‼︎」
「ああ‼︎」

丁度曲がるとやっぱり奴がいた。

俺達と反対側には春樹が走って来てる。

これでもう、終わりだな。

「ほら陽。お前の番だよ」
「…」
「助けたいんだろ⁇桜のこと。だったら自分の力でやってみろよ。桜喜ぶぞ」

俺は陽の背中を押す。

「おぉ‼︎」

なんだかその背中が逞しかった。

とは、本人に言えねーけど。
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