キミノウソ
サイゴのウソは“未来”
蝉の声が鳴り響く真夏の太陽の下、俺は汗も拭かずに走り続ける。

着いた先は学校。

足を止めることなく職員室まで走る。

「せんせっ…‼︎」

「‼︎東さん…待ってた、一緒に病院行こ高野さんが居るから」

「カノッ…は‼︎大丈夫、ですよね?」

「…」

8月、学校からの電話。

カノが、屋上から飛び降りたって。

嘘だ、カノは生きてる

先生と大掛かりなドッキリを仕掛けたんだよな。

カノ、イタズラ好きだからな。


病院のベッドで横になって。

白い布をかけられてて顔が見えなくたってわかる。

「…カノ」

嘘、だって

「カノ…?」

いつまで息止めてんだよ。もうビックリしたから、十分。

「カノ」

白い布取ってさ、笑えよ

ドッキリでした〜ってさ。いつもみたいに

「…カノッ‼︎カノッカノォ…

返事しろよ、なぁ‼︎」

「ルイ」

「アヤ、サク…カノが、」

「…やだ、ルイまで仕掛け人なの?」

「もう、やめよーよこんな縁起悪いの」

…二人、震えてる

「…俺だって、ターゲットだよ」

「…カノン…」

「なんでっ‼︎ねぇ、先生‼︎」

「…」

「そうだ、先生は学校に居たんだろ?なんで、なんでカノを助けてくれなかったんだ?」

なんで、なんで?

「…風景画。屋上からの景色を描きたいんだって言ったんだ。高野さんは優等生だったから屋上の鍵を渡して…

なのに高野さんは…」

先生も、泣いてる

次に入って来たのはカノのお母さんとお父さん

「カノン…何よこの日記

そんなこと、思ってたなんて

ゴメンね…ゴメン、ゴメンなさい…」

…日記?

「カノママ…日記見せて」

「…はい、これ」

カノママは泣き崩れてる。カノパパは今にも泣きそうな顔でカノママを支えてる。

サクとアヤも泣いてる。

「…俺が、冷静にならなきゃ」

カノは、いつでも冷静だったもんな。見習うよ

不安症で、いつでも周りの心配ばっかしてた癖に、大事な時には冷静だったからな、お前は。

パラパラとページを捲り、一枚一枚読んでいく。

最後のページに皆への手紙が挟まれてた。

カノが今迄お世話になった人全員に書かれている。

「カノママ、カノパパ」

「…」

二人で顔を見合わせてそれぞれの手紙を読む

「サク、アヤ」

二人も泣きながら読む

「…先生」

先生は辛そうな顔をして手紙を受け取った。

…ココに居る人の分は渡したよね

一番後ろに、俺への手紙。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
瑠維へ

ルイはこれ、ドッキリだと思ったかな?けど、ゴメンね?これ本当なんだ

ルイ、ありがとう

心友になってくれて、ありがとう

私みたいなのを嫌わないでくれて、ありがとう

俺はいつでも味方だって、隣に居るって言ってくれて、ありがとう

他にもたくさんあるよ、ルイへのありがとう

ゴメンね、ルイ

私が最期に描いた絵、屋上にあるはず

探して

ねぇ、また。

生まれ変わった時はきっと逢えるから

その時はまた遊んでね…

愛してます、今でも

ずっと、ずぅっと見守ってるから、そばに居るから。

次は私が、守るから。

泣かないでね?

カノ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

読み終えた瞬間、手紙をポケットに入れて走り出した。

向かう先は屋上。

絵と、カノを探しに

(なんだよ、私みたいなのって‼︎)


キィィィィ…

息を整えるのも忘れて扉を開ける。

屋上を見渡して。

「…カノ」

柵に座り、空を眺める後ろ姿。

名前を呼べばふわりと振り返る。

『…ルイ』

足元に、絵を発見。

風で飛ばないように石を重り変わりにしてる。

砂を払い、見るとこの町の風景。

色鉛筆で綺麗に彩られている絵の空には、何故か俺とカノの顔。

『綺麗だよね、この景色』

「…あぁ、そうだな」

カノの隣に行って柵に凭れかかる。

泣きそうなのはきっと景色が綺麗だからだ。

『その絵、ルイにあげる

もともとそのつもりで描いたしね』

「宝物にするよありがとな、カノ」

『最期に見た景色に、ルイが居て良かった』

「…なんだよ最期って」

『わかってるんでしょ?ルイ』

「…」

『逃げちゃダメだよ、逃げてたら、いつまでたっても終わらない』

「…本当に、死んだのか」

『…ゴメンね』

「…そか」

『幽霊の記憶、消えちゃうんだって

だから、ルイと今喋った事消えちゃう…‼︎』

「大丈夫。何処かでまた思い出して、出逢えるからな」


『この、景色とルイの事だけは忘れない。

例え忘れたって思い出せるから。』

「また、生まれ変わった時は心友になってくれよ」

『当たり前でしょ?ボクが会いに行くから、待ってて。』

「何年でも何十年でも何百年でも待ってる」

そう言えばカノは笑ってそして涙を一雫零した。

『バイバイ…』

「ぁ、カノッ…‼︎」

カノの手へと伸ばした手は後一歩のところで届かず宙を切った。

「忘れない、大丈夫。

俺も、お前も絶対にまた逢える。

俺らが望めば必ず…な。」


(…そうだろ、カノ)

絵を持って屋上を出て行く時、カノが

そうだね

と返事をして笑ったような気がした。
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