アルマクと幻夜の月



イフリートが言うには、〈イウサール〉はこの空き家を根城にしているようだ。


「よし、じゃあ作戦通りに頼むぞ」


気合い万全に肩を回しながらアスラが言うと。


「……本当にやるのか」


と、いかにも嫌そうな顔でイフリートが問いかける。


「ん、もちろん。そんな顔をするなよ、イフリート」


いつにもましてしわの寄せられたイフリートの眉間を、人差し指でちょんちょんとつつきながら、いやに上機嫌なアスラは言う。



「おまえはただ、全部弾いてくれさえすればいいんだ」


「はじく? なんのこと?」


後ろから問いかけるシンヤに、「内緒」と答えて。


「よし、行こう」


アスラはためらいもなく、立てかけてあるだけの扉をのけた。


「たのもー!……え?」


満面の笑みで叫んだアスラは、しかしすぐにきょとんとした顔をして、「あれ?」と首を傾げた。


酒屋の中には、誰もいなかったのだ。


「イフリート、間違えたのか?」


振り返ったアスラに、「阿呆」と、イフリートが冷ややかに言う。


「地下だ」


短く言ったイフリートの言葉に、なるほど、とアスラは頷いた。



< 190 / 282 >

この作品をシェア

pagetop