アルマクと幻夜の月



侍女が答えると同時に、紗がすこし開いて小さな手が外にちらついた。

アスラはその手を取って、輿から降りた。


待ち構えていた人々の歓声がアスラを包む。先導する小姓はルトだ。


「母上は?」


アスラが小声でルトに尋ねると、「もう広場に」と、ルトは短く答える。


歓声の輪をくぐり、アスラはしずしずと歩いていく。

民に微笑を投げかけながら、その耳は歓声にまぎれた民の言葉を敏感に聞き取っていた。


めったに表に出ない方だから見たことがなかったが、あの方がアスラ姫か。


きれいなお姫様だねえ、お母さん!


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