僕を止めてください 【小説】




「君は私なんかよりずっと優しい人間だ。性癖はノーマルじゃないけど、君の精神はごく普通なんだよ。普通じゃないふりを装うんじゃない。そういうの気分良くないな。私みたいに普通じゃないど変態から見ると」

 彼は脱がした僕のズボンをまた穿かせた。

「この子はイクとかイカないとかを求めてないだろ。君に違うものを求めてるだろ」
「俺は…こいつのオヤジじゃねぇ」
「いいや、オヤジであるべきだ。だって君もそれを求めてるんだからね」
「求めてねぇよ!」
「いいや、求めてる!」

 サラリーマンの人の語気が荒くなった。

「この子は君を通して世界を見てるんじゃないのかな? とても変わった子だから親御さんも大変だろうよ。でも君はこの子に生きている世界に触れさせるアダプターを持っている」

 そう言うと彼は僕ににっこり微笑んだ。そして彼は僕の手を引っ張りあげて身体を起こした。

「愚痴をずいぶん小島くんから聞かされてる。たまにここで飲むんだ。出会ったのは最悪な事態だったけど、私は小島君に危ないところを助けてもらって、そしてボコボコにされた。それが良かったんだけどね。悔しいけど恩義があるんだ。変態にも義というものがあるんだよねぇ」

 はっきりは言わなかったが、なにかの折に小島さんはこの人を助けたんだということはわかった。




 
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