僕を止めてください 【小説】
「はい。嫌です」
「どうして?」
「僕は死の世界で安住してたんです。満足だったんです。でも、自殺の屍体は僕のなにかを刺激するんでしょうかね。最初はとても良いって思ってたけど、すぐに違和感でました。でもどんどん自分がそれに性欲を感じて、その焦燥感が苦痛で苦痛で。本を返してもその記憶が僕の中に残っちゃったんです。なんかあの感覚って苦しいんです。苦しいのに快感も感じる。だから忘れられなくて忘れたくて、呪われてるって思いました。松田さんの呪いです」
「気持ちよさだけ感じていればいいじゃない。エッチは気持ちいいよ?」
「そうでしょうか…僕はそうは思わないです。死の静けさから離れてくあの違和感は理解しがたいんですかね」
「うん、理解しがたいね。だって生きてるのに。逆になんで君が死の静けさなるものを知ってるのかが変だよね。一度死んだことでもあるの?」
「さあ、無いと思いますけど」
「小さい頃病気とか事故で仮死状態になったとかさ。お母さんから聞いてない?」
「ないです…それとも覚えてないのかなぁ」
「お母さんに聞いておいて。宿題ね」
寺岡さんは先生らしく宿題をくれた。
「なんで自殺の屍体だけなんだろうね。それが不思議だ。なんで彼等、死んでるのにそれだけは死の静寂と無関係なのか…だね。だって、君が絞め落とされる時は苦しくないでしょ? 違和感ないんでしょ? 違う?」
「はい。むしろやってほしいくらいです。数秒でイッちゃいますから全然。むしろ殺されるかもと思うと、清々しいです」
「なんか矛盾してる。複雑だな。分析が難しいね、君は。あ、そうだ。実際見せるよ、当日。例の画像準備するからね」
やっぱり見せられるのか…そう思うと僕は憂鬱になった。