僕を止めてください 【小説】




 自殺の写真集、そして失神。それは生まれて初めての激しい感覚と感情を僕にもたらした。僕は彼に犯されたことよりも、いままでにない強さで自分の感受性を揺さぶるそれらに、動揺し、混乱し、そして再びそれを体験したいという欲望に戸惑った。

 性欲というものが僕の中で産声を上げた。その声は赤子のような生の感動とはかけ離れていて、それはまるで冥府の亀裂から吹き上げてくる死者の叫び声に似ていた。

 再び意識が戻ると、僕はまだソファに仰向けに横たわっていた。手足が泥のように重く、身体全体が疲れ切っていた。彼の姿はなく、僕は部屋に取り残されていたが、僕はそのまま仰向けで身動き出来なかった。脚を動かそうとすると、肛門から内股にかけて皮膚の感覚が麻痺したみたいに変だった。がしばらくすると彼が部屋に戻ってきた。バスタオルで髪を拭きながら僕を見下ろした。シャワーでも浴びていたんだろうか。

「起きたね。気分はどう?」
「…え…あ…身体…重いです」
「君もシャワー浴びてきて。起きられる?」
「体中重くて、なんか股間が痺れてます」
「ああ、ごめんね。キシロカイン塗ったの。痛くないようにね。初めてだから痛いかも知れないし。痛いと目が覚めちゃうでしょ。大丈夫だよ。失神してると変な力が入らないから、肛門が痛まなくていいんだよ。ちゃんと見たけど、傷は付けなかった。血も出てないしね」

 彼はすまなそうにそう言った。





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