僕を止めてください 【小説】




「よし。もうエロ発作は治まったか」
「ええ。今のところ…痛くて…それどころじゃないです」
「切って良かったな」
「まぁ…そこはね」
「服着て寝ろ。服どこだ」
「ああ…ここです」

 僕は掛け布団の下からスウェットの上下を引っ張りだした。服を着て横になると、幸村さんがベッドの端に腰掛けて脚を組んでため息をついた。

「さーて、落ち着いたところで検案の堂々巡りの問題を協議しようか」
「堂々巡りの協議って…」
「お前の思い込みのことだ。自分が死神だっつーやつ」
「思い込みって…」

 あれほど言ったその後にも、幸村さんの中では僕の桎梏が妄想ということになっていた。

「それが解けないとお前は自分から助けも呼ばないからな。不便極まりない」
「まぁ、不便ですよね。僕もそう思います」
「不便だっていう自覚はあるのか」
「そりゃ…制限が大きいから」
「だな」
「それに誰かさんみたいにまったく意に介さないと、ほんとにイライラします」
「俺はお前の思い込みがイライラするわ。一体何がお前をそんな妄想に縛り付けてんだ?」
「妄想じゃない…過去の体験から来た事実…です」
「どんな」
「…言いたくない」

 話が多すぎて、しかも長くて説明する気力はない。

「まぁ…無理に聞き出すもんでもないけどさ。でもお前、それに一生繋がれてていいのか?」
「不便ですが…さほど困ってはいないし」
「嘘つけ!」
「いえ、どうせこの世に執着ないし」
「嘘だろおまえ、いつか言ってただろ? 死んだら悲しむ人がいるから死ねないって! それも立派な執着だぞ」
「ああ…そういうもんですか」

 それは新しい視点だなと、僕はあとで少し考えることにした。

「だいたい運命なんて決まってんだよ。お前が誰かを死なせる係だったとしてもだよ。そいつの運命がお前の隣に自分自身を運んだんだよ。お前のせいじゃねーだろ」








< 412 / 908 >

この作品をシェア

pagetop