僕を止めてください 【小説】
「やりたいのはやまやまだけどね…さすがにソコまでは出来ないから、ここでスクリーニングして欲しいわけですよ。本部長はメンツを立てながらも、予算はそれほど自由にならない。だからここで取捨選択が要る。ところで岡本君は何故あの時、危険ドラッグの可能性を示唆できたのですかね?」
そう言われても…あの時は午前中の例の水死体の件で意識が不安定だったので、思い出したくないし思い出せなかった。
「それは…堺教授、手元に写真ありますか」
「ああ、これでいいかな」
鑑定書類の中から、この前撮った全身写真を手渡された。僕はそれを眺めた。少し思い出してきた。
「刺された時に、ぼーっとしてるの感じがして…えっと…意識レベルが低下してる感じですか。脳の病変もなくて、頭部の打撲痕無し。薬毒物検査にも出ない、アルコールも飲んでいない、睡眠中ではない、自分をかばう意識もない。刺された時も、なにこれ、って思ったんじゃないかって。立位だったんですし。それなら起きてて朦朧と出来て今までの試薬に反応しないのは危険ドラッグの類は考慮してもいいかなと」
「まぁ…合理的な判断ですねぇ。分かりました。取り敢えずそう言うケースはお二人で判断して血液資料を科捜研に送ってください。堺教授もよろしくお願いします。それから『DT』の資料置いていきます。なにかありましたら私か幸村に連絡して下さい」
「犯人の目星はついてるんですかね」
堺教授が警部に訊いた。
「ボチボチですけどね。幸村が追ってるんで、輪が狭まってきたはきた。あとは確証なんですが…暴対とも絡んでくるんで。それと今年に入って来てから厚労省の危険ドラッグ専門の麻薬取締官も出張ってきてるんでね。なんだか三つ巴というか…まぁ、なにか新しいことが分かったらお願いします」
午前中から疲れたような感じで長谷川警部はどっこいしょと言って立ち上がった。教授と二人で玄関まで見送り、そのあと教授室に戻った僕達は、例の『DT』の資料を代わる代わる目を通した。透明の小瓶に入っていて、パープル色のグラデーションのデザインのラベルが貼ってあり、そこには赤と黒でDevotion&triggerのロゴがオールドイングリッシュのフォントで書かれていた。おかしなことに、そのデザインを僕はどこかで見たような気がしていた。