僕を止めてください 【小説】


「ええ。あれを小さい裕は、閉じ込めた、と言いました。でも、このたびとうとうどうにもならないところまで来て、僕が自暴自棄になったので、小さい裕が出てこれたんだと思います。そしてこの先僕が本当のことを追求せずに放ったらかした時は、ぼくが死んじゃえばいいんだって笑いながら言われました。そうすればみんなも死ぬって……小島さんも寺岡さんも、母も……でも母にそれをどうやって聞けばいいのかまったくわからなくて。そしたら途方に暮れている僕に小さい裕が言うんです、寺岡さんはあのときも優しかったねって。お母さんと仲が良いからきっとどうにかしてくれるって……そんなこと言って。わかったって言ったら、最初は喜んでいたんですが、僕が躊躇していると、電話しろ電話しろって地の底から響くような声で僕を脅してくるんです。どんどん狂ったようになっちゃって。どうしようもなくて電話の通話ボタンを押しました」
「そうか。でも、私に掛けたのは正解」
「正解も何も……僕がこの件で相談できるのは寺岡さんしかいないですから」
「うん、そうだね。それは私も知ってる」
「なんか……ピンチの時にだけこんな連絡して、虫が良いのはわかってるんですが……もう……どうしていいかわかんなくなっちゃって」
「いいよいいよ。ようやく頼ってくれたんだ。嬉しいよ。死神問題は私もずっとどうにかしたいって思ってたからさ。こんな風にチャンスが来るんだね。有り難い話さ。自暴自棄も悪くないな!」
「そんなこと言ってもらえるような人間じゃないんですが」
「悪魔だから、かい?」
「ええ……みんな巻き込まれて……僕がやったんです……僕が全部」
「そうだね。君がやったんだよ。隆の傷を癒やして、奇跡のように私と隆を繋いでくれてさ、ちゃんと猛勉強して国立の大学に合格して医師免許取って、成人して就職してお母さんを安心させて、腕の良い法医学者になって、殺人事件を次々解決して警察にも感謝されて、大いに社会の役に立ってる。ね? 悪魔とハサミは使いよう、って言うじゃん」
「そんなの結果論だ」
「元悪魔だった私が言うんだから間違いないよ」
「そんな」
「隆から聞かなかった? 他人のもの盗るのが大好きだって」
「ああ……聞いた気がします」
「でも、隆も知らないけど、寝取るだけじゃなくて、栄光や地位を毟り取るのもお手のもんだったよね」
「なんですか、それ?」

 今まで聞いたことない話が今更出てきた。

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