ビター・スウィート



「もちろん、仲直りしたんですよね?」

「うん。ちーに言われたように、素直に言ってみた。『好きだから別れたくない』って。……彼女もやっぱり、俺の気持ちがわからなかったから試したかったみたい」



困ったように笑うその笑顔は、昼間とは違う幸せそうな笑顔だ。

つられて笑う私に、広瀬先輩は「あと、」と少し緊張したように髪をかく。



「さっきの、ちーが言ってたことなんだけど」

「え?あ……」



『私……ずっと、広瀬先輩のことが好きでした』



それはきっと、私の告白に対してのこたえ。



「今まで全く気付けなくて……ごめん。それに、応えることも出来なくて、ごめん」

「いえ、いいんです。私こそいきなりすみませんでした」

「だけど、これまでもこれからも、ちーは俺にとって大切な女の子だから。その気持ちだけは、変わらないから」



『大切な女の子』



それはきっと異性ではなくて、友人や家族、妹のような。近くて遠い距離を示す位置。

だけど大切な人が『大切』だと言ってくれた。ただ、それだけで。



「はいっ……」



それだけで充分、嬉しい。



大学生から今まで、何年もの長い恋の終わり。失恋をしたのに不思議と心が軽いのは、涙を拭ってくれる彼の存在があるから。

みっともない泣き顔だって、抱き締めてくれる。優しさを知っているから。



これもひとつの、幸せな終わり。





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