ビター・スウィート



「可能性のないことに縋るのは、アホくさいと思うけどな」

「可能性がないってわけじゃないですもん。『可能性があるかわからない』だけです」

「わからない、ね……」



ない、だなんて言い切らないで。わからないもん。私の頑張りで、変わることもあるかもしれないんだから。

臆病な私は、まだ気持ち一つ伝えることは出来ないけれど。

近くで彼のことを知る。私のことを知ってもらう。今の私に出来るそんな一つ一つから、行き着く先などわからないから。だから、全てを否定なんてしないで。



「……ま、せいぜい頑張れば」



内海さんはそう呟くと、ポンポンと私の頭を軽く撫で歩き出す。



……ついさっきまで、『諦めろ』って言っていたくせに。

悪魔な彼はストレートで、思ったことをそのまま言う。だから『無駄』とか、ひどいことも平気で言う。

だけど『頑張れば』、そう言ってくれたということは、否定的だったその心も微かに動いたということで。



「言われなくても頑張りますよーだっ」

「言っておくが、当然仕事優先でな」

「わ、わかってますー!」



バカにされたことは、悔しい。だけどその頑なそうな心が動くこともあるのだと知った。

涙に濡れたハンカチを握り締め、二人夜の街を歩いた。





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