ビター・スウィート



「……化粧、落ちる……」

「もう遅い。落ちてる」

「えっ!?」



自分でも目元に触れてみれば、手にはマスカラの黒いかすがついていた。

涙でぐしゃぐしゃな顔はきっと予想している以上にひどいのであろうことは、鏡をみなくたってわかる。

は、恥ずかしい……!



「変な顔」

「変!?」

「……冗談」



はは、と笑う顔。それはいつもの怖い顔とは違う、子供のような楽しげな笑顔。初めて見る表情に、心がまたドキ、と鳴った。



「ほら、さっさと立って化粧直して来い。広瀬の所戻るぞ」

「……はい、」



差し伸べてくれる手と、向けられる瞳。それが、こんなにも安心するなんて。

……へん、なの。



悪魔の優しさを知ってしまった。

その指先と眼差しに、不覚にも今日はドキドキしてばかりだ。





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