キスから始まる方程式
◇エンゲージリング


「はぁっ……」



その日の夜。


自室の学習机に頬杖をつきながら、盛大な溜め息をつく私。


ここのところ、溜め息をつく回数がものすごく多い気がするのは気のせいだろうか……?



「写真のことだけじゃなく、指輪のことも桐生君にバレちゃったなぁ……」



右手の親指と人差し指で指輪を挟むようにして持ち、指先でコロコロと転がしながらもてあそぶ。



「よいしょ……っ。まだ入るかな……?」



昔は薬指にピッタリだった指輪も、成長した今ではギリギリ小指に入るかどうかという具合になってしまった。



「ん……っ、やっぱりちょっときつい……」



指輪でキュッと締め付けられた小指を目の前にかざし、キラキラと赤く輝くプラスチック製のストーンをじっと見つめる。


おもちゃの指輪だが、私にとってはエンゲージリングといっても過言ではない。


初めて見た時と変わらず、愛おしい感情が心の奥底から溢れ出してきた。


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