もう「恋」は始まっている・・・
ー 運命 ー
「原田さんの家、行って見たいな・・・」
ネガをチェックしながら聞いてみた。一つ断っておきたいのは、「恋人」になったからといって、簡単に抱かれるような女ではない。彼の全てが見たかった。彼の全てを知りたかった。
「家?狭いよ。掃除もしてないし・・・それで良かったらどうぞ。」
ネガのチェックを終え、彼のマンションがある目黒に向かった。
「ちょっと遠いけど。」
と、駅の西口を出て目黒通りを高輪方面に歩く。彼の右側には赤いマウンテンバイクだ。「本当に遠い。」と念を押されたが、彼と歩いている道など一瞬だった。港区白金台のワンルームマンション、ここの「203号室」が彼の部屋らしい。
「狭いけど、どうぞ。」
「お邪魔します。」
ドアを開けると玄関、右手にユニットバス、左手にはキッチン、奥にリビング。万年床らしく、布団の上に案内された。
(このまま押し倒されたらどうしよう?)なんて不安は微塵も無かった。
ただ、どうしてよいかわからない・・・彼もそのようで、私の隣に座り壁に寄りかかっている。
「あっ、そうだ。記念に写真撮ろうか?」
「えっ、このまま?」
「うん、自然な姿でいいじゃん。」
確かに自然な姿だが、私は照れ隠しで胡座をかいて座っている。こんな姿で良いのだろうか?
「はい、撮るよ。」
彼はもうポラロイドカメラを構えていた。フラッシュが光る。「ジー」と出てきたポラロイドフィルムには、私の胡座姿が写されていた。
「あっ、そうだ。一つ聞きたかった事があるんだけど。」
「なに?」
「なんで私を選んだの?」
「なんでか~・・・う~ん・・・」
少し考えたのち答えが返ってきた。
「写真を通して、葵さんの純粋さが伝わってきたからだよ。」
その答えが私の心に突き刺さった。
「私を選んでくれてありがとね。」
こんな言葉でしかお礼が言えない自分がもどかしかった。
その後も相変わらずな「なんとなくな時間」を過ごし、気が付けば20:00時になっていた。
「じゃ、帰るね。」
「わかった。」と、少し残念そうな彼。
そして帰り際・・・また彼を抱きしめてしまった。いくら想っても伝えきれない気持ちを込めて、強く強く・・・
「また葵さんからだよ。」
そして彼の手が私を抱きしめてくれた。

ー 運命を信じますか?私は信じます。彼と出会えたのは「運命」です。 ー 葵二奈

< 8 / 8 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

ニケに恋して・・・

総文字数/1,038

その他2ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop