Roman

疑問


死とは一体何なのだろうか

呪文のように唱えられる問いと、チョークが黒板を叩く音が虚しく響き渡る真夏の授業最中、箜之坂玄(コウノサカヒカル)はふとそんなことを考えていた。
死という未知なる先に待ち受けているものは、謎。この世に生きる誰一人とも知れやしない理。
得体も知れない物事に自ら足を踏み込むなんてこと、到底臆病者の俺にはできやしないと、窓奥に映る青々とした空を見つめ玄は思った。
理由はとても簡単、死という概念に対する一種の恐怖が歯止めを掛けるから。逆に言うとその恐怖さえなくなれば、彼から死という言葉特有の恐ろしさはなくなってしまうのだろうが。

しかし恐怖といっても、手足が震えたり夜も眠れなくなるという類ではなく、未知なる領域に差し掛かる前段階のような、期待と不安が入り交じった恐怖心。だからこそ不思議に思ってしまうのだろう。単に恐ろしいだけならば、こんな些細な問いなど考えもしない。

人は―――この世界に生まれ落ちた生物は、死んでしまったらそれで終わりなのだろうか。死という恐怖を乗り越えたご褒美として、何か幸せがまっているのだろうか。そもそも―――人が想像している死というものは、本当に存在しているのだろうか。

問いは、未だに解けていない。


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