Pair key 〜繋がった2つの愛〜

試しにわたしは手を離し、柔らかな彼の髪に触れてみる。

一瞬だけ見開いた目、ふんっと斜めに顔を向け、腕を組んで偉そうに……でも、嫌だという素振りではなくて、止めろと言う叱責もない。それが彼の、俊哉さんの本心なのだと思う。

わたしはクスリと微笑んで、急に可愛らしく見えてきた人を目の前に……その人には到底真似できないであろう言葉の数々を口にする。


「俊哉さん、大好きです……」

「誰よりも大切で、愛してます……」

「いつまでも側にいたいです……」

「誰にも渡したくないんです、ずっとわたし…」


“わたしだけを見ていて欲しい”そう言おうとしたところで、わたしの口は塞がれた。
噛みつくようなキスを受け流すと、優しい口づけに変わってゆく……
言いようのない悦楽に包まれて、ぼうっとしてきたところで俊哉さんがぼそりと呟く。


「いい加減にしろ、馬鹿娘……」


そう言って睨みながら僅かに頬を染めている彼。
照れているのかもしれないし、憤慨しているのかもしれない……どちらにしても、キスでもって発言を封じるあたり、わたしが嫌われていないのは明らかだった。


「……ホントは嬉しいくせに」

「…ッ……馬鹿も休み休みにしろと言ったのだ、私は!」

「そんなに照れくさいの?」

「小娘……人の話を聞け」

「いいじゃない。わたし、たまには素直に伝えたいって思ったんだもの……好きって気持ち、俊哉さんに……」

「伝え方を誤っているとは思わないのか?私がそれを、よもや望んでいるとでも?」


そう言って彼がわたしの体を抱き上げて、スッと立ち上がるから驚いた。


「わっ!……え、ちょっと……なに!?」

「どこぞの馬鹿娘に付き合うのは骨が折れる……」


そんなことを言いながら、俊哉さんがわたしをベッドに放り投げた。
仰向けに倒れこんだわたしの上、両手をついて覆い被さるようにして……その身をもって視界を塞ぐ。


「お前の幼稚な発想に付き合って振り回されることに、心底うんざりしているのだよ私は……」

「……ご愁傷様です」

「少しは詫びろ」

「振り回してごめんなさい。でもわたしも好きで翻弄したわけじゃないんだよ?」

「誰がッ……翻弄された、と?」

「…………俊哉さん……と、わたし?」

「…………」

「わたしも俊哉さんに、もてあそばれた気分です……今日だっていっぱいヤキモキ焼かされて、疲れました」

「何を言って——」

「だって俊哉さんったら女子大生の相手ばっかりしてて、全然わたしのこと見てくれないんだもん」

「それはお前が妙な格好をしてくるのが悪い……こんなに粧し込んで、一体なんのつもりだ?」


さらりとワンピースを撫でつけて、裾を掴んでチラリと捲る。
軽やかな透ける素材の、幾枚も重ねられてる布地がずれて、シャランとかすれる音がした。


「いいじゃないですか。わたしだって、たまにはオシャレしたい時があるんですぅ!」

「そのせいで随分と男に言い寄られていたではないか……それも計算の内か?」

「あ、あれは……予定外です!あんなの、予想できるはずが無いですよッ!」

「はっ、どうだかな」

「もしかして、俊哉さんも妬いてた?」

「…………」

「あんなので嫉妬しちゃうの?」

「――ッ、悪かったな!」


つり眉の片方をヒクつかせて、怒った俊哉さんがガバッと離れてわたしに背を向ける。
追いかけるようにして起き上がって見てみれば、少しだけど耳が赤い……

(うそみたい……)

意外すぎるリアクションに驚いたわたしは、しばらく呆然とした後に、小さな笑いを押し殺しつつ、憤慨している大きな背中に抱きついた。
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