Pair key 〜繋がった2つの愛〜
出会った当初は、ただの世間知らずだろうと思った。

見るからに知識も経験も浅そうな、小娘風情がこの私に躊躇いもなく進言し、堂々と異見を唱えてみせた——

コイツのように先の読めない面白みのある若者が、今後再び現れようものなら……私は迷わず引き抜こうとするだろう。
目の届くところに置いて、動向を観察してみたくなるだろう。

若いうちから保身に走るくらいなら、向こう見ずなくらいの方が、成長が見込めるぶん育て甲斐があって良い——そんな酔狂にも近い、余裕のようなものが生まれたのは……
心から仕事を楽しむようになり、私が人から変わったと囁かれるようになったのは、全て愛音との交友が始まってからのことだった……

どこか自分と似ているようでいて、全く非なるコイツに私は――俺は、いつの間にか心を奪われた。

それを今さら返して欲しいなどとは思わない。

(そんなもの、くれてやろう……)

だがしかし、それ相応の見返りは用意してもらう。
私の目方に見合うだけのものを、お前は私に差し出すべきだ。



――私の心はお前に預ける。


だからお前もさっさと寄越せ――



いつかの台詞が蘇り、思い出し笑いを忍んで
問いかける。


「それで?結局お前は、私に不満があるのか?ないのか?」

「大アリですっ……!!」

「ほぉ……」

「なので、今後も俊哉さんの側を離れません!いつも傍にくっついて、俊哉さんの悪いとこ指摘してあげますよ。
俊哉さん、わたし以外の人間から指示されることなんて無いでしょうから……だからわたしが一番近いトコにいて、俊哉さんが天狗にならないよう“おもし”になってあげます!」

「くっ、ははははっ……そうか、重石か。それはまた……ふっ、随分な役割だな……」

「そんなに笑うことないのに……」

「……お前、その責任ある役割を、生涯にかけて貫けるか?」

「え……?」

「貫徹できるのかと訊いている」

「貫くって、一生?」

「そうだ」

「一生は……たぶん無理、かなぁ」

「————そうか」


無頓着そうに無理だと答える愛音。

私が一体どれほどの思いで訊ねたか、そんな事、気付きもせずに……

思わず動きを停止して考え込んでしまっていた。
何がこの差を生んだのかと、胸がざわめいて落ち着かない……

居場所を求めて彷徨うように、気が付くと私は思考の迷路に踏み出していた。


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