Pair key 〜繋がった2つの愛〜
部屋に戻り、とすんとソファに座り込みながら、愛音の表情を仰ぎ見る。
室内に目が慣れるのにしばらくかかったが、愛音が化粧を落としているのは明白だった。

粧して化けるとは良く言ったものだと……別人のようにあか抜けたさっきまでの愛音と今との差に頬が緩んだ。

もともと素質があったのだろうと思いつつ、飾らない普段の顔を前にして私は……仕事を終え、ようやく帰宅して愛用の椅子に座り込んだ時のように、心底ホッとする思いだった。

しかしそんな私とは対照的に、腕を組み、首から胸元を手で伝いながら……何やら悩ましげな表情で、外界の彼方を見つめている愛音。
戸惑いにも似た、疲労のようなものが窺えた。


「……そんなに疲れたか?」

「え?……うん、まぁ」

「なら座れ」


目線だけで、隣に座ってもいいのかと問いかけてくる愛音。
お前はいつからそんなに遠慮深くなったのかと、言ってやりたいのを飲み込んで、敢えてストレートに促す。
なにか、妙な違和感が、あった……
愛音が隣に座ったところで、寄りかかっていた半身を起こして問いかけた。なにがそんなに疲れたのかと——
すると、真面目くさった顔色をして、愛音が話の腰を折る。


「ここ、高そうですよね……」

「そうでもない」

「もっと普通のところで良かったのに……」

「なにを遠慮する必要がある」

「別に、そうじゃなくて……」

「では何だと言うんだ?」

「………松元さんって」

「………?」

「わたしのこと、どう思ってるんですか?」

「薮から棒になんだ……それは、どういう意味だ」

「そのまんまの、意味ですけど……」

「聞いてどうする、お前はすでに知っている筈だろう」

「…………」


そうですね……と、小さく呟いた愛音を見て、何かコイツは勘違いをしているのではないかと疑問を覚えた。
根拠はない。だが、思い込みの激しい鈍感娘だ……とてつもない勘違いをしていないとも限らない。
私は仕方なく質問に答えてやることにした。
なぜこんなことを今さら……そう、思いながら。


「どうもこうもないだろう……お前は鈍くて単純で、思い込みの激しい馬鹿正直な小娘だと思うが?
根は真面目だが、決して要領良くはない……もっと機転を利かせるべきだな、私のように」

「………恋愛面は?どうですか?」

「……まあ……悪くはない」

「わたしと一緒にいて……楽しい?」

「…………」


(なんだコイツは……急に、どうしたと言うんだ?)

朝から妙だとは思ってはいたが、いつになく気合いの入った格好といい化粧といい、何か関係があるのか?
世間一般では、女は記念日にうるさいと言う。しかし今日は、誕生日でもなければ、何かの記念日でもない筈だ。
この私が、それを間違う筈もない……

わけが分からず、暫し沈黙していると、怒ったような強めの口調で再び問いかけてくる。

「ねぇ、どうなの?楽しい?」

(面倒くさい……なぜ今さらそんな事を言わねばならんのだ、鬱陶しい……そもそも楽しいとか、楽しくないとか、最早そういう次元の話では無いのだ、コレとの関係は)


そう思ったと同時に、愛音がピタリと動きを止めて、鋭い声で言い放った——


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