Crescent Moon
『キスの理由』



好きと嫌いは、紙一重だ。

どちらにも共通して言えるのは、その相手を意識しているということ。



好きな相手の存在は、もちろん誰だって意識するだろう。

意識していなければ、好きだなんて思わない。


相手のことを想って。

その人のことを求めて、求めて、いつでもその人のことばかりを考えて。



嫌いな相手の場合は、どうなのだろうか。


好きな相手の時と同じく、意識しているのではないのかと思うんだ。

意識していないと言うのであれば、嫌いとさえ思わず、関心をなくすであろうから。



好きと嫌いの境目なんて、とても曖昧だ。

流動的で、ユラユラと流されて、変わりやすいもの。


その境目を越えるのは、もしかしたら、考えているほど難しくなんてないのかもしれない。





あれから、ずっと考えてる。


あのキスの理由を。

あのキスの意味を。



大嫌いなはずの男。

まさか、あの冴島とキスをしてしまうなんて。


二重人格で、性格はお世辞にも褒められたものなんかじゃない。

他の人には好青年のフリをして、何故か私の前でだけ、本当の姿をわざとらしく見せつける。


取り柄なんて、その顔だけだ。

モデルみたいに整った、日本人離れした顔の造りだけ。



出会いは最悪だった。

初対面は、うちの学校の屋上で。


憩いの場に突然現れた男は、初対面の私に毒を吐いた。



「な、な、何で………、何で笑うのよ!」

「ぷっ………、くくくっ、はははははっ!!」


ああ、思い出しても腹が立つ。



「親父みたい。」

「は?」

「仕草とか行動が、親父みたいだなーと思って。だから、笑ってたんだよ?」


私のことを親父だと言って笑った顔が、今でも頭から離れない。


最悪だった。

最悪であるはずだった。



その印象を引きずっていた私は、あの男と距離を置いた。

同僚として、職場の先輩としての距離よりも、必要以上にあの男から離れた。


人間なら、嫌いな人間に自ら近付きたいだなんて思う人は少ないだろう。

関わりたくないの思うのは、自然なことだろう。



そんなことをしても、面倒なだけだ。



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