Crescent Moon



安易に流されてしまってはいけない風。

妥協してはいけない選択だ。


だからこそ、求めるものも高くなる。

気分だって、落ちて当たり前なのだ。


私からしてみれば。




「ご趣味は?」

「車が好きなんですよ、うちの子。綺麗好きで、いつも車の掃除ばかりで………」

「あらあら、綺麗好きなのはいいことじゃないですか。車が好きだなんて、男の人らしくていいわ!」

「まあ、そうですか?」

「まひる、そう思うわよね?」



ごめん。

はっきり言って、どうでもいい。


車は嫌いじゃないけれど、興味が湧くほど好きでもない。

詳しくもない話に、どうやって乗れと言うのか。



当人同士は放っておいて、周りばかりが盛り上がるのはどうしてだろう。


あえて、口は挟まない。

挟みたくもない。


だって、私はお見合いなんかしたくない。

この話に乗り気なのは、私ではなくお母さんだ。



(あー、早く帰りたい………。)


着物なんて、着るもんじゃない。


帯はきついし、息も苦しくなってくる。

苦しくて、苦しくて、窒息してしまいそう。



帰りたい。

帰って、部屋でくつろぎたい。


こんな場にいるくらいなら、部屋でゴロゴロしていた方が何倍も有意義というもの。



「………。」


感じる視線は、向かい側。

私の正面に座る、見合い相手から。


チラリチラリと覗き見る様に、私に視線を向けてきているのが分かる。



私とは違い、どうやらあちらは満更でもないらしい。

少なくとも、私よりはこの話に乗り気なのだろう。


先ほどから、こちらの存在を気にしている様子だ。



冗談じゃない。

止めて欲しい。


私は全くと言っていいほど乗り気なんかじゃないのに、私以外の全員はその気になってしまうなんて。



悪夢だ。

どうしよう。


この後は、お決まりの台詞が出てくるに違いない。



『後は、2人きりで』



< 8 / 86 >

この作品をシェア

pagetop