Crescent Moon



踏み込んだアクセルみたいに、加速していく。

心が逸って、躍って、それを止められないでいる。


上がっていくスピードに惑わされ、心がかき乱されていく。








窓の外は、今日も雨だった。

ザァーッと音を立て、窓に激しく打ち付けられる雨粒を横目に、ため息をつく。


ここ何日か続いている雨に、気分まで憂鬱にさせられている。



たまにはカラッと、青い空でも見せて欲しい。


こうも雨ばかりだと、気持ちまで塞ぎ込んでしまいそうだ。

窓ガラスの奥に広がる、どんよりとした灰色の雲みたいに。


雨粒が付いた窓ガラスを、そっと内側から指でなぞる。



(………冷たい。)


ひんやりとしたガラスが、指先から熱を奪っていく。

熱を奪われて、心までもが冷え切っていく。


せっかくの週末なのに、私の心もこの空と同じ色。



カレンダーは6月に入り、梅雨入りが宣言された。


6月が水無月と言われる所以は諸説あるけれど、梅雨で天の水がなくなる月だからだと言われている。

田植えで水が必要になるからだとも言われているが、こちらの理由の方が現実的だなと思う。


窓の外を見れば梅雨空が広がっているのに、テレビの中でまで雨のニュースばかりをやっていて、だんだんとそれにもうんざりしてきているところだ。



私は、梅雨というこの長雨の季節が嫌いだ。


洗濯物が乾きにくいという理由が、まず第一にある。

女としては、洗濯物が乾かないというのは死活問題になるのだ。

部屋干しばかりしていると部屋の中が生乾きの変な臭いで満たされるし、身に付けてもどこか濡れているような気がして気持ち悪い。


それに雨の日は、何もしなくても自然と気分まで落ち込んでくるというのが第二の理由。


暗い空の色を目に映すだけで、不思議と心まで同じ色に染まっていくのだ。

どんよりとした灰色に染まってしまった心を、元の色に戻すのはそう簡単なことではない。



そんな浮かない毎日を過ごす私にも、楽しみにしていることが1つだけある。


それは、あの男に会えること。

冴島に会えること。


私とあの男の繋がり、唯一と言ってもいい繋がりは、同じ職場で働いているということ。



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