【完】純白の花に、口づけを。



「千花…、」



名前を呼ばれて、ふっと現実世界に意識がいく。



呼んだ本人は、スヤスヤと気持ちよさそうに眠ったままだ。



「ん……傍にいて……」



「っ、」



そんな、声で。



哀しくてたまらないとでも言うような、そんな切実な声で、言わないで。



「──…依千花」



すごく、ずるい。



普段は“千花”としか呼ばないくせに、こうやって寝言では私をちゃんと呼ぶ。



それが悔しくて、でも言うだけ無駄だから何も言わないけど。




……喉、かわいた。



彼を起こさないように椅子にもたれかけさせて、部屋を出る。



向かいの扉が同時に開いて、少しだけ驚いてしまった。




< 210 / 347 >

この作品をシェア

pagetop