花の名は、ダリア
また静かになった。
でもまだ、一人きりじゃない。
「ごめんな。
俺じゃ、長く飼ってやれねェから。」
手を伸ばしたソージは、抱いていた子猫を塀の上に乗せた。
「行きな。
悪戯しすぎて、捕まンじゃねーぞ。」
声をかけたソージをクリクリした大きな目で見下ろしてから、子猫は駆け出した。
器用に塀を渡って、その向こうに姿を消して…
行ってしまった。
今度こそ、一人きり。
息をつこうとしたら、別のモノが胸の奥からこみ上げてきた。
咳。
そして、鉄の味。
ようやく治まり、口を押えていた手を外すと、掌に真紅の花が咲いていた。
地に倒れている天竺牡丹と、よく似てる。
だけど全然違うンだ。
「根腐れしたワケでも手折られたワケでもねェンだから、おまえは死んだりしねェだろ?」
血で汚れた口元を浴衣の袖で無造作に拭ったソージは、植木棚の脇に置いてあった新しい鉢を手に取った。
とりあえずはまだ、猫の悪戯の後始末と花の世話くらいは出来るな、なんて思って、少し笑った。