花の名は、ダリア


虎穴に入らずんば虎児を得ず

正にソレだと思うケド、言うほど簡単なモンじゃない。

逃げなくちゃ。

でも、逃げてばかりじゃダメだ。

矛盾する二つの感情の波に揉みくちゃにされながら、少年は暗い森の中を必死で駆けていた。

地の利は確実に彼にあるし、深夜という時間帯も味方して、追っ手の数はずいぶん減った。

けれどまだ、荒々しい声が聞こえる。
時折、足元がライトに照らされる。

それに、敵は少年の内にもいる。

疲労、そして空腹だ。

息が乱れる。
顎が上がる。
足が縺れる。

縺れたついでに、飛び出た木の根に躓いてしまった。

湿った地面に盛大にダイブし、辺りにベチャっという音が響く。

捕まるわけにはいかないのに。
今は逃げなきゃいけないのに。

どーしてだろね?
こーゆー時のこーゆー音は、異様に辺りに鳴り響く。

見つかっちゃったカナ?

擦りむいてしまった膝の痛みを堪えて四つん這いになり、恐る恐る振り返れば…

そこには軍服を着た二人の男。

見つかっちゃったネ。

てか、意外と近くにいたのネ。



終わった。

望みは断たれた。

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