花の名は、ダリア


壁どころか天井まで、乾ききっていなくてダラダラ垂れてる血痕だらけ。

石の床には、数体の無惨な死体と大きな血溜まり。

こりゃスゲェ。

さっきの手術室より、よっぽどスプラッターじゃねェか。


(なのに… 変だな。)


階段を下りて地下にやってきたソージは、惨憺たる状況の細い廊下を見て眉を顰めた。

ナニが変って、嗅ぎ慣れた血の匂いがしないコト。
その代わりに、嗅ぎ慣れないベルガモットの爽やかな香りが漂っているコト。

どーなってンだ?

血溜まりを踏んづけて。
蝶番ごとフっ飛んだ鉄の扉を踏んづけて。

ソージが歩みを進めると、ダリアは例の独房だと思われる薄汚い小部屋の中に立ち尽くしていた。


「ダリア。」


声をかけても、暗闇で唯一光を放つペールブロンドが揺れることはない。

彼女は振り返らない。


「この香りはなんです?」


ソージはガン無視を気にする様子もなく小部屋に入り、ダリアの隣に並んだ。

すると、やっと彼女の口が開く。


「アックア・デッラ・レジーナよ。」

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