花の名は、ダリア

わ、ヤっベ。
起こしちまったか?

ちょっと動揺。

けれどダリアは半醒半睡の様子で俺の首に抱きつき、幼い声で呟いた。


「可哀想ね…
可哀想ね…
泣かないで…」




ンだよ。
寝ボケただけかよ。

ナニ?

雨の雫を、涙と勘違いしたってか?
この俺が泣いてるってか?

クソが。


「可哀想なのは、貴方のほうですよ。」


フニャフニャ言いながら首に額を擦りつけるダリアの耳元で、俺はそっと囁いた。

彼女は悪魔。

傷つかないどころか滅びない肉体と、誰よりも傷つきやすい無防備な心。

容易に人の命を奪える力と、誰よりも強い人の命への愛。

その均衡を愚かな人間の手によって壊され、生まれてしまった悪魔。

可哀想な、可哀想な、俺の愛しい悪魔。

悪魔の見る悪夢なんて、シャレになンねェだろ。

ちゃんとダリアを抱き上げた俺は、狭く寒々しい玄関を離れ、彼女の華奢な肢体をベッドに横たえた。

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