花の名は、ダリア

重い扉を閉めてしまえば、もう中の喧騒は聞こえない。

誰もいない廊下は、静まり返っていた。

本格的なコンサートホールではないから、舞台袖からの出口は、普通にこの廊下と繋がっている可能性が高い。


「人間が人間のまま、ヴァンパイアに協力してるって言うンですか?」


両開きのドアの、開閉スペースのための窪みに身を隠し、ソージは小声で訊ねた。

ソージにピッタリ寄り添ったダリアも、やはり小声で答える。


「んー…
協力と言うより、騙されて、イイように使われているンだと思うの。」


「そんなコト…」


「出来るわ。
サムはペテン師だもの。
昔、宝石の傷を消せる、なんて嘘でダイヤモンドを集めて、代わりに偽物を返したりしてたわ。
ちゃっかりみんなに感謝までされてね。」


「え?
ダイヤモンドの傷を消せる?
ソレ、どっかで聞いた逸話だな…」


首を捻りながらも、ちょっと納得。

だから『自己啓発セミナー』か。

弱みにつけこんで騙し、洗脳し、意のままに操る。

まさにペテン師の独擅場。

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