花の名は、ダリア


分厚い遮光カーテンで夜のように暗くなった執務室を物色するのは、それなりに骨が折れた。

隣の寝室にいる伯爵にバレるとマズいから、明かりは点けられないし。

だがまぁ、首尾は上々。

カオリは盗んだ鍵で地下への扉を薄く開けた。

傍では、これ以上ないほど身を縮めたタナカが、


「やめましょ?
やっぱやめましょ?」


などと囁き続けているが…


「やめないわよ。
てか、なんでアンタまで一緒に来てンの?」


カオリは眉を顰めて彼を一瞥し、冷静に言葉を返した。

彼女には、もう後戻りする気なんてない。


「ジャマするなら、着いてこないで。」


「いやいや…
あんなバケモノがいるトコロに、女性を一人で行かせるワケには…」


「なら、黙って着いてきて。」


「ぁぅぅ…」


ハイ、タナカ撃沈。

ちょっと男前なコト言ってみたのにね。

二人は足音を忍ばせながら、真っ暗な階段を慎重に下りていった。

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