涙の理由
春の匂いが鼻先をかすめる中、
私達はグラウンドにいた。

マネージャーさんたちに、
見学してもいいですかと聞くと
明るく受け入れてくれたのが嬉しかった。


「あれ、新入生?」
そう言って近づいてきたのは
優しい茶色い髪をしたひと。

「は、はいっ」
思わず裏返ってしまう声と、
ピシッと固まる背筋に、
その人はまた
「そんなに緊張しなくてもいいよ」

と優しく笑った。


─しかしそのとき、ふと
違和感が心を引っ掻いた。

なんだろう…このひと

そう思わせるような人。


私がその人を探ろうとする前に、
その人は他のサッカー部員に呼ばれたらしく、
ごめん、と申し訳なさそうに笑いながら去っていった。


変な人…
そう思うと同時に、心の中に小さく花が咲いた様な気持ちになった。

何か、引き寄せられる感じがする
あの人には何かある気がする



そして花奈の、
その眼差しにも気付いてしまった。

こんなに眩しそうに、
こんなに愛しそうに、
こんなに幸せそうに、

その人を見る花奈の顔を
初めてみて、
驚きと、何かを発見して喜ぶ子どものように思ったし、

ひどく動揺もした。




それは私が、親友の花奈をあの人に取られた気になったのか、

私があの人を意識し始めたからなのかは

わからなかった。


ただ、心の中に何かが詰まった気がした。





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