褐色のあなたに水色のキミ
「寒いから、外に出なくていいで」


一誠さんは、私に背を向けたまま歩いている。ちゃんと話をしやな。この話には続きがあるんやから。


「一誠さん、待って。話を聞いて…」


帰ろうとする一誠さんと、引き止めようとする私…。マンションの玄関を一緒に出た時、人の気配を感じた。


「しおりちゃん…」


その声に、一誠さんは足を止め、私はビクッとした。


偶然、マンションの前を通りかかった誠人くんに、見られたくないところを見られた。


「しおりちゃん、知り合い?」


一誠さんが、誠人くんをチラッと見てから私に聞いた。私は、何も言えずに俯いた。


「さっきの人、やな?」


私にしか聞こえない、小さな小さな声で確認する。一誠さんは、ポケットをガサゴソすると、俯いたままの私の手に、冷たくて硬い何かを握らせた。指に伝わる感触で、それは愛鍵だとわかった。


「さよなら…」


そう言って去ってゆく一誠さんは、愛する人の待つ家に向かって帰っていった。私の手の中で愛鍵は、ただの合鍵に変わった。






< 81 / 84 >

この作品をシェア

pagetop