*とある神社の一人ぼっちな狐さんとの、ひと夏の恋物語*


「狐さんとお出かけするのって、
初めてですね。」
出勤中の会社員が数人乗っているような朝の電車。
私と狐さんは座席に肩を並べて座っていた。
「あぁ、そういえば。」
微妙に開いている私と狐さんとの間が、
もどかしかったけど、
私には近づく勇気もなかった。
「デートみたいですね。
・・・とかなんちゃって、えへへっ。」
冗談めかして言ってみたものの、恥ずかしくなって自分でごまかしてしまった。
「・・・デートでいいんじゃない。」
「えっ?」
その言葉に狐さんの顔を見ると、狐さんも私を見ていて、
「なんちゃって。」
と舌を出して悪戯っ子の目をした。
「朱里の真似してみた。」
「もう・・・ふふっ、」
笑いあった二人に、電車の利用者たちの視線が刺さって、私たちはまた恥ずかしそうに笑った。


「じゃあ、ここで待っていてください。」
「あぁ。」
狐さんに校門の前で待っているように指示し、
私は久しぶりの校内へ足を踏み込んだ。
「夏休みだから人がいないなぁ。」
当たり前か、と自分の中で納得し、
職員室のドアに手をかける。
「失礼します。」
ガラッとドアをあけると、
すこし離れた席に、
担任の先生と学年主任の先生、
教頭先生と校長先生が、
机を囲むように座っていた。
「立花さん、こっちよ。」
担任の先生に手招きされてその空いていた席に座った。
「大変だったねぇ。」と学年主任の先生。
「で、退学についてだけど・・・。」
どんどん話が進んでいく。
本当なら学校に通い続けていきたかったけど、教科書も制服も、そして通帳などのお金関係の物もすべて火事で燃えてしまっていたので、それを賄うお金も、私は持っていなかった。
だからといって何もしないままでいると、将来職につけないから、一応ネットを利用して、高校の資格や、それ以外の資格もとれたらな、と考えている。
そんなに甘いことじゃないんだろうけど、それでもやっぱり、この世界は便利になったと思う。
「一応、手続きはこれで完了。」
「はい、じゃあ・・・失礼します。」
「困ったことがあったら、
いつでも声をかけてね、立花さん。」
「ありがとうございます。」
担任の先生は、少し情に厚い先生なので、少し涙ぐんだ目でそう言ってくれるのが、本当に心配してくれているのだとわかる。
それが、嬉しかった。


職員室から出ると、
目頭が少し熱くなっているのに気が付いた。
「・・・行かなきゃ。」
よし、と深呼吸をして、
目頭を拭って、走り出した。


校門がみえてくると、
早く狐さんに会いたくなった。
「・・・え?」
でもそこにあったのは、
困った顔をしている狐さんと、
それを囲んでいる数人の女の子たちの姿だった。
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