ハンドメイド マーメイド
 


「先輩、肺活量すごいっすね」


どのくらいそうしていただろう。
今日は他の部員たちがいないから、いつもよりずっとずっと静かで穏やかな時間を過ごしていた。

水から顔を出して振り向くと、すぐ正面のプールサイドにしゃがんで水の中を覗き込んでいた彼と目が合った。

「そう、かな」

「ずーっと潜ってましたもん。あんまり長いからちょっと心配しちゃいました。……それよりさ、これ見てこれ見て」


そう言って彼が差し出してきたのは、何やら小さなもの。プールサイドまで近づき、ゴーグルを外してよく見てみる。

「……わ、」

「ね。きれいでしょ。さっきプールの底で光ってたの見つけて」


彼から受け取ったそれは、乳白色のかけらだった。

形は楕円形。薄くなめらかで、けれども固く、光沢がある。
太陽にかざして角度を変えてみると、それに合わせて光沢の色も変化していく。小さい頃にアクセサリーを作って遊んだ、七色に輝くオパールビーズを思い出した。

「……なんだろ、これ」

「昨日まで全然気がつかなかったんですけどねー。なんか、鱗っぽくないですか?」

「うろこ? 魚の?」

うーん。それにしては少し大きすぎる。ゴーグルのレンズくらいの大きさの鱗をもつ魚なんて私は知らない。
そもそもどうして魚の鱗がプールの底に落ちているのか。


「人魚……とか」


私と一緒にかけらを見つめながら、至近距離で彼がにっこり笑ってみせる。

その顔は、まるで宝物を見つけたきた子どものようで。無邪気で、狡さや疑いの混じった曇りがなくて。


水みたいに、透明で。


 
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