YELL
1 全力
熱くなったことって、覚えている限りでほとんどない。小さいころは、毎日一生懸命遊んでいたと思う。でも、中学は部員のやる気がない吹奏楽部。高校では、帰宅部。
何かに全力で取り組んでみたい。
そんな気持ちが無いわけではない。
でも、ここまできて、全力になることができるのかな、という気持ちもあるし、全力を出すことがかっこわるい、みたいな変な気持ちもある。本当は出したいのに、出せずにいる方が、かっこわるいと思う気持ちもあるのだけれど。

私の青春は、これで終わりなのかな。

熱いのって、なんか苦手。
いつの間にか、勝手にそう思うようになっていた。

受験はうまくいって、ちょっと難しいのではないかと言われていた大学に入ることができた。大学生活に、少し希望を持っていた。

フレー

フレー

そ、ら、だーい

フレー

フレー

そ、ら、だーい

その、魂込めましたといわんばかりの全力の声を聞いたのは、大学の新歓イベントでのことだった。

「ねえ、あれ、知ってる?応援団やって。なんか、今どきそんなことする?って感じせえへん?」
「あ、応援団。へー。なんか、そんなの高校にもあったような気がする。」

4月だというのに、太陽は新入生を歓迎しようと張り切っているみたいに、グラウンドに強い日差しを向けている。

比菜は一瞬、応援団の全力さに目をとられていたが、かのみの声に我にかえった。

「よく頑張るな、こんな暑い中。おつかれさまです。」
かのみがそう言い残して、二人はステージ前を後にした。

2時間くらい、色々な部活やサークルが出しているテントを回って、活動の説明を聞いたり、ぐいぐい押してくる勧誘を断ったりした。
でも、やっぱり入りたい!となるほどどれも魅力を感じなかった。比菜は、自分には感動する心がないのかと不安になりそうなくらいだった。

かのみは、いくブースごとに、これめっちゃ楽しそう!これも良い経験なるかも!この部活の人たちおもしろい!など、良いところをいっぱい見つけて、入りたい候補を3つに絞ったらしい。

「比菜、何も入りたそうやなかったけど、どうするん!?あたしと一緒のにする?」

比菜は、それでも良いかなあと思った。中学の時も、仲良くなったかのみと一緒に吹奏楽部に入ったんだった。でも結局、さぼってばっかりの部の雰囲気をあんまり好きになれず、かといって練習するように促すこともできず、もどかしかった。かのみは周りを気にせず一生懸命練習していたと思う。

「ちょい、比菜聞いてる!?」
「あ、ごめん。わたし自分に何が向いてるか分からんのやけど。どうしよ。」

笑いながらも、こんなんで良いのかなとは思っている。

「じゃあ応援団行ってみなよ。さっきのステージの。」

かのみの声から本気ではないことは分かる。

「あ、ちょっと、行ってみようか。」

なぜかとっさに比菜の言葉が出た。

「え!あんた本気で言ってんの?」
かのみの驚いた声にはっとして、比菜はちょっと考えて、

「違うよ。だって変わってるやん?なんか、今ぐらいしか話聞けそうにないしちょっと話聞くぐらいおもしろいかなと思って。」
と言った。何を言っているんだ、自分。
「確かに。あたしも聞いてみよ。さっきは暑い中おつかれさんでした、ぐらい言うとこ。」

かのこは明るくて前向きで、いつも好奇心いっぱいだ。中学から一緒なのに、こんなにも性格が違うなんて、少しはその前向きさを分けてほしい。

「あはは!!!めっちゃおもしろいですね!!」
「ほんでな、そこで言われるがままダイブよ、ほしたらそこに、クラゲ!!てか、クラゲ初めて見て、すげーってなぜか手をのばすー」
「えー!!」
「さされるー」
「さされるー?」
「げきつぅーー!!」
比菜も大笑いした。
盛り上がってるのは、かのみと応援団の人。
「てことで入りなよ。」
「入りましょうかねー?」
かのみがふざけて会話している横で、比菜はかのみと応援団の人のコミュニケーション力の高さを尊敬していた。

「初めて会ったばかりなのに、すごいですね。かのみもかのみですけど。」

比菜が素直に言うと、ちょっと応援団の人の顔がゆるんだ。かのみもまた唐突なこと言って、と言った顔で微笑んだ。

「そんな言われたら嬉しいわー!!俺めっちゃ人見知りやけどな!」
と笑われた。
「人見知りとか、絶対うそですよね?!」
またかのみが盛り上がっている。
「この子かわいいでしょ。ちょっとあほなんです。」
比菜はほめたつもりだったのに、違う方向に話がいって少しすねた。

夜は応援団の新歓飲み会があったので、行かせてもらうと、そこには多くの一回生がいた。

テーブルごとに自己紹介して、応援団さん中心に話が盛り上がって、しばらくして、隣の一回生が話しかけてきた。
「彼氏いんの?」
唐突やなと思いながら、首をふると
「いえーい!俺たく!よろしくー!同じ学部!」
「比菜です。よろしく。応援団入るん?」
たくは目を丸くした。
「入らんよー!大学はもっと自由に過ごすんや。応援団厳しいらしいしな。飲み会はこんな感じやけど。飲み会が楽しめるから来てるだけ!」
比菜が新歓てそんなもんなのかと思った。

「比菜ーちょいこっち来てー!」
かのみに呼ばれた。

「はる子、応援団入るんやってー!元ダンス部!めっちゃ柔らかい!」
「もう一回見せてー!」
応援団の人にのせられて、はる子は堂々とY字バランスを見せた。
「というわけでこの子も入るんで、よろしくお願いします。」

「は!?」

かのみが比菜の肩をつかんで応援団の人とはる子の方を向けて、
「青山比菜です。どうぞよろしく。」
「いやいや、言ってないよね!?」

「イエーイ!!よろしく!」
「これからよろしく!!」
応援団の人とはる子までのっかってきた。

比菜はかのみを見て、なんでよと怒った顔を向けたが、
「比菜もここでなら新しい自分を発揮できると思うで!」と言った。
「かのみは?」
比菜が聞くと、
「あたしも入りたい気持ちもあるねんけど、日本一なりたいからな、ラクロスすんねん。」

「俺らめっちゃ応援するからな!東京連れてってや!!」応援団の人もノリノリである。

「まあ、焦らせはせえへんけど、どう?俺らと、熱い大学生活を過ごさへん?」

比菜は、ここなら、今までの自分から変われるんじゃないかと言うか気がして、

「じゃあ、やります!」
と言ってしまった。
言ってしまった...






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