星降る夜に。
頭の中にみのりが前に言った言葉が浮かんだ。

“要は身売りでしょ?”

今ならそれを自分の中で認められる気がする。だって実際、恋愛感情のない始まりだったから。




「彼とは合コンで知り合って、貰った名刺には高城出版の営業と書かれてた。休日に電話がきたとき私は工場を手伝っていて、近くで電話をしていた母の声が聞こえてしまったの。『宮坂印刷所』って…。それで実家の話になった。
彼は自分が跡取りだと教えてくれて、彼のお父さんの信用を使って銀行を紹介してくれたり、印刷の仕事を回してくれたりして…。それでどうにか経営を立て直せたの」




大輔さんは黙って聞いている。


ここから先は姉は知らない、みのりにも話したことがない、彼が私に言ったあの言葉。



『もしお父さんの工場が潰れたら、働いてる人もお姉さん家族も路頭に迷うよね?銀行にも、うちの信用や面子が丸潰れになる。莉子ちゃんが僕と付き合って結婚してくれるなら工場は一生安泰だよ?』



天秤にかけるまでもなく、すぐに答えが出た。


自分の幸せか、家族を守るか。


本来なら比べるべきものじゃない。

どちらも幸せであるべきなんだ。勝手な理想論だけれど。
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