ためらうよりも、早く。


けれど、ぷかぷか浮かぶボートのような不安定さに身を委ねる毎日とは、これでキッチリさよならだ。


もやもやする感情を消化出来ないのなら、自らその薄い殻を破れば良いだけのこと。



今まで、仕事もそうして断ち切って進んで来たのだ。——迷った時点で何ら良い結果は待っていない、と信じて……。



「——さて、今日も行きますか」

顔色の悪さをカバーするため、今日はローズ系のリップを塗って準備はすべて完了。



長い人生、誰しも色々なことを抱えている。私の場合、ほんの少し煩わしいことが重なっただけ。


生きていると辛いことの方が多いらしいし、もう泣く暇なんてない。涙だって枯れきったから、きっと大丈夫。


相棒の腕時計とルブタンに、今日はシンプルなパンツ・スタイルで気合いは十分。よし、これで笑顔で仕事もこなせるわ。


初秋を先取るボルドー色の本革バッグを手にすると、軽快な足取りで自室をあとにした。


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