ためらうよりも、早く。


数多の超絶オトコとフィーリングに委ねて肌を重ねて経験値はアップし、それに伴い、自然と視野や交友関係も広がった。


このまま私らしく突き進んでいくわ、と意気揚揚に過ごしていると決まって、風船男との当時を夢に見てしまう。


それも色々な意味で子供だった高校生の頃の私が、必死に何かを訴えかけてくるため、夢見が悪いのも頂けない。


現実でもそうだ。——一方的に断ち切ろうとする度、祐史はフラっと現れて、不敵な笑みで「ただいま」と言う。


なぜ清い昔馴染みでいられなかった?と何度も心に問い掛けたのも、微かな期待と依存する本当の私を隠すため。


あの顔と声、清涼感のある香りがトレードマークの昔馴染みは、とうにひとりの男としか見られなくなっていた。



欺瞞に満ちた表情で紡ぐのは、贅の限りを尽くしたように甘い偽りのフレーズ。


今日くらい、ヤツの『愛してる』がインチキにしか聞こえなかったことはない。


この感情を認めるのが遅すぎたなんて思わない。……また蓋をすれば良いもの。


大丈夫。これまで激甘な台詞にも対応出来るだけのスキルは身につけてきたわ。


でなければ、昔馴染みとして会えなくなる。……なんて、また無駄な足掻きか。


忘れるために求めたはずのお酒は、現状と自身を分析するツールになっていた。


< 43 / 208 >

この作品をシェア

pagetop