元カレ。【短編】
「ごめん。」

靖史は香奈に向き直ると、頭を下げた。
そんな靖史を見たことがなかったので、香奈は驚いた。逆ギレされるものだと思っていたのだ。

「…やっちゃん?」

「悪い、そうだよなぁ…俺が言うことじゃないよなぁ。」

靖史はキマリ悪そうに頭をかく。

「俺、香奈と別れた後付き合った子に、すぐにフラれてさぁ…『自分勝手すぎる』って。」

靖史の顔が赤い明滅するライトに照らされている。こんな顔をしていただろうか?香奈はぼんやり考えながら見つめる。

「俺、別れてからやっと解ったんだ。香奈がどれだけ俺に合わせて我慢してくれてたか。ガキみたいなプライドや思い込み押しつけてさ………悪かった。んで、ありがとう。」

靖史はまた頭を下げる。香奈はびっくりして靖史を見つめるばかりだ。

「香奈ぁ…」

靖史は香奈の頭に手を置くと、そのままぽんぽんと撫でながら続ける。

「香奈はさ、そのままでいいんだよ。男なんて色んなやつがいるんだからさ、いちいちそれに合わせたりしなくていんだよ。香奈が自分らしくしてて、で、それで居心地がいい相手を見つければいいんじゃねぇの?」

靖史は香奈の頭から手を離すと、あぐらをかいたその両膝に手を置いて、かしこまったように構えた。

「俺は、そうやって香奈に幸せになってほしい。…以上です!」

そうして、また頭をぺこりと下げたのだった。
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