元カレ。【短編】
靖史が警官に連れられてコンビニから出て行くと、すぐに数人の警官が入ってきて、香奈を保護した。
別に人質になっていたわけでもなく、むしろ人生相談をしていたのだから、きまりが悪い。
警官に囲まれてコンビニから出て行くときも、被害者よりはむしろ加害者のような気がして、安堵するどころか緊張してしまった。
大勢の人の目に晒されるのが恥ずかしくて、うつむいたままパトカーまでたどり着く。
パトカーのドアが開かれて、乗り込もうとした瞬間、香奈は動きを止めた。
完全に混乱して、声も出せない。



パトカーの中で待っていたのは、雅人だった。



雅人は安堵したように微笑んで、香奈をパトカーに乗せる。

「……良かった。無事で…」

優しく香奈を抱きしめてくれる。
夢だろうか?
温かな雅人の体温が、鼓動が伝わってくる。
大好きな匂いが香奈を包んでいる。
それらの感覚が、夢ではないことを告げている。

「…どうして?」

「香奈が何か言いたそうだったのが気になって、まっすぐ帰れなくて…近所のファミレスでなんとなく時間つぶしてたんだ。そしたらコンビニで強盗だっていうから…少し、嫌な予感がして、様子見に来た。まさかほんとに香奈だなんて………ほんと、心配した。」

雅人は香奈をいっそう強く抱きしめる。
耳元で聞こえる雅人の声が優しい。
香奈の視界が涙でにじんでいく。
もう水分なんて無くなったと思っていたのに。
嬉しいときも涙がでるということを、香奈は改めて思い出していた。



「雅人…私、もっとちゃんと自分の気持ち伝えるから。やり直させてほしい。まだ、私と一緒にいてほしい。雅人のことが好きなの、一緒にいたいの…。」



やっと伝えられた気持ちは、涙声でかすれていた。
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