元カレ。【短編】

ひとりになった夜

お互い忙しい日々が続いて、ひさびさに会う時間がとれた週末だった。
香奈は浮かれて、朝から掃除や料理など、雅人(マサト)を迎える準備を進めていた。
ひさびさに会えるのが嬉しくて、おとなしくしていられなかった。

雅人が来たら何を話そう?
料理は気に入ってくれるだろうか?
食後観ようと思って借りたDVDは?
夕方までの時間はあっというまに過ぎた。

夕方、18時をまわった頃、雅人がやって来た。

「いらっしゃい。」

「おじゃまします。」

「何か飲む?」

「ん、なんでも。」

いつもより口数が少ないのが気になった。疲れているのだろうか。

「疲れてる?食欲ないの?」

「いや。」

返事はするものの、雅人は料理に少ししか口をつけない。
香奈が少し不審に思った時、雅人が宙ぶらりんにしていた箸をカタンと小さな音をたててテーブルに置いた。

「…どうしたの、何かあった?」

問い掛ける香奈に向き直ると、苦しげな表情で雅人は口を開いた。

「ずっと…考えてたんだけど…」

香奈は緊張して声が出ない。
雅人は意識したかのように、強い口調で続けた。

「俺たち、もう会わない方がいいと思うんだ。」


香奈の頭の中で雅人の固い声が空転する。雅人の発言があまりにも突然で、うまく処理できなかった。意味が、理解できない。
思考停止しそうなのをこらえて、香奈は雅人にしがみついた。


「…なんで?」
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