委員長に胸キュン 〜訳あり男女の恋模様〜
「お待たせ……」


 桐島さんは、手に長方形の大きめなトレイを持っていて、ドアを閉めるのも大変そうだった。そんな事なら僕がドアを開けてあげるべきだったのに、なんて僕は鈍臭いんだろう。

 そう言えば、今朝、田村さんの別荘を出るまでは我ながらキビキビ動けてたと思う。いつもあんなだと良いのだけど、あれはいったい何だったんだろう……


「玉子がゆと紅鮭がゆなんだけど、どっちがいい?」

「え?」

「私もお腹空いちゃったから……」

「……ああ」


 桐島さんもお粥を食べるって事らしい。


「桐島さんはどっちがいいの? 僕はどっちでもいいから」

「ダメよ。相原君が病人なんだから、相原君が決めて?」

「そう? じゃあね、紅鮭の方にしようかな」


 別に玉子は嫌いではないけど、玉子がゆは甘そうなイメージがしたんだ。僕はどちらかと言うと、甘いのは好きじゃないんだよね。


「そう? やっぱりね……」

「やっぱりって?」

「ううん、何でもない」


 桐島さんの言い方が少し気にはなったけど、それ以上追求はしなかった。


 桐島さんはローテーブルにお粥とたぶんカップスープをひとつずつ置き、トレイを少し持ち上げて、


「これ、膝の上に置ける?」


と僕に聞いてきた。つまり桐島さんはローテーブルで食べ、僕はベッドの上で食べる、という事だろうけども……


「あの、僕もそっちで食べるよ」


 という事にした。少しでも桐島さんの近くにいたいと思ったからだ。

 そして僕は、何気なく夏掛けの布団を剥いだのだけど、


「きゃっ」


 なぜか桐島さんは、小さく悲鳴を上げた。

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