LOVE or DIE *恋愛短編集*
百円均一で買ったような安っぽい瓶だった。
一応ガラス製。
蓋だけプラスチック製の赤と青、2個セット。
いや、多分バラで2個色違いを買ったんだろう。

お祝いにと言われて何事かと思った。
だって今日は誕生日でも記念日でもなんでもないから。

忙しなく手を動かしながら彼女が「ひとり暮らしが淋しくないように」と言ってようやく、それは引っ越し祝いなのだと分かった。

彼女は蓋を瓶の底に受け皿代わりに敷いて、赤と青のビー玉を底に敷きつめた。
赤い蓋の瓶には赤いビー玉、青い方には青を。

それからペットボトルの水を半分くらい流し込み、いよいよと言った得意げな顔で、大事そうに液体の入った袋をふたつ取り出した。


……また、随分と面倒なものを。


「手伝って。青い方にこれ」

赤いのが入った袋を手渡され、渋々彼女に倣って中身を瓶に移す。

小さな青い水槽では赤の、赤い水槽では青の金魚が、袋の中よりは心地がついたのか悠々と泳ぎ始めた。


「何だって金魚。しかも2匹も」

ようやく文句を言える隙が出来た。
ところが彼女は全く意に介さない。

「ベタよ、別名闘魚」

「トウギョ?」

苦情はスルーされるのが分かったので、仕方なく聞き慣れない単語の説明を求める。

「喧嘩するの。ヒレを開いて。凄く綺麗なの」

彼女が言った通り、ガラス越しに目が合うと2匹はふわりと羽根を広げた。
確かにそこには、ひどく儚げなのに力強い幻想的な美しさがあった。


「一緒の水槽じゃ駄目なの。でも、喧嘩相手がいないと生きていけない」

「……なるほど」

合点がいった。
一緒に暮らそうという誘いを断ったのは彼女の方なのに、何故祝いになど来たのか。
何故、コレが引っ越し祝いなのか。


「生憎だけど俺は生き物の世話なんかしないから」

機嫌を損ねたように上目遣いで睨んでくる彼女の反撃が始まる前に、

「水替えと餌やりはお前がやれよ」

言えば、一瞬綻びかけた顔を必死で繕っている。


餌やり口実に、毎日喧嘩しに来ればいい。
でないと、きっと《生きていけない》んだから、2人とも。





*fin*


(執筆2014/2/?)
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