キミと帰る道






「ん? 光輝くんは、逢原さんと大野さんのことは覚えられていたのかな?」





不思議そうにそう聞いてきた先生に、優芽ちゃんが横に首を振った。





「藤谷くんが覚えたのは、すずだけです。
すずが、藤谷くんがその病気を治せるように。 人の顔が覚えられるようになるようにって。
毎日毎日話しかけてたんです」




「じゃあ、光輝くんは……逢原さんのことだけ忘れてしまったってことですね」





そんな先生の言葉が聞こえて、私はまた俯いた。





だんだんと、灰色の床がにじんで見えて来るようになる。





…泣いちゃダメなんだよ。
まだ、我慢しなきゃ。





「彼は恐らく記憶障害です。
…直に思い出すとは思いますけどね」





———それなら、いいけど。
でも、ただの記憶障害じゃないんだよ。





ふつうはこのまま明日もお見舞いに来たら、〝昨日来た人だ〟ってなるけど。





…藤谷くんの場合はそうじゃないから。
また、がんばらなきゃだから。







———正直言うと、ちょっと辛い。








< 206 / 228 >

この作品をシェア

pagetop