嫌われ者に恋をしました

 この間の監査の時も、隼人は「若いのに」と言われていた。年上の人が「お前は自分より下なんだ」と思い知らせるために使う言葉。

 そういえば綾香も「松田課長は管理職では若い方だから、舐められないようにあんな威圧感出してんのかもね」と言っていた。若いって言っても確か32だったと思う。所長さんたちから比べれば若いかもしれないけど。

 毎回こんなことを言われて、もう慣れているのかも知れないけど、監査課長なんて立場、嫌じゃないのかな。監査なんて「上から目線」と思われてしまう仕事は、思いっきり年上の人がやればいいのにと雪菜は思いながら、横で淡々と話す隼人をそっと見上げた。

 隼人は、手早く監査説明を済ませて、最後に本社への報告スケジュールの説明をして話を終わらせた。

 今回の営業所はほとんど問題はなく、嫌がらせをするような変な対応もなかった。雪菜は少し気を張っていたから、内心かなりホッとしていた。

 社用車の前まで行くと、永井が雪菜に声をかけた。

「お疲れ様。一日書類ばっかり見てると疲れるよね」

「お疲れ様です。経理の書類確認は午前中で終わりましたから、私は大丈夫です」

「そお?僕らは午前も午後も資料ばっかりだったよ」

 永井はそう言って伸びをして見せた。そんなこと言って、午後はほとんど柴崎課長とお喋りしていたくせに。雪菜たちは備品の確認をするために席を外していたが、総務課二人が午後、ほとんど何もしていなかったことには気がついていた。

 総務課の二人は本当にちゃんと見てくれてたんだろうか。もしかして、その辺りも折り込み済み、なのかな。雪菜は遠くで柴崎課長と話をする隼人を見ながらそう思った。
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