嫌われ者に恋をしました

「そういやさ、この間俺、初めて藤堂専務に飲みに連れて行ってもらっちゃったよ」

「もしかして、あの綺麗どころのいるお店?あの人、ああいうの好きだよな。そういう年代なのかね?それとも弁護士だからか?」

「さあ?仕事も遊びも徹底してるっていうか、なんか余裕あるよね、あの人。松田はあのお店もう何回も行ってるんだろ?」

「え?ああ……」

「店の女の子が『松田課長って人、なんか怖くないですかぁ?』って言ってたぜ。もしかして女の子たちにも嫌われてるんじゃね?ププッ!笑えねー」

 ……あの店のママは嘘つきだな。だからこの間、隣に座ったのが新人だったのか。

「お店の女の子にも嫌われるようじゃ、お前、救いようがねーな!」

 二人はまたゲラゲラと笑った。

「いいんだよ、別に!」

 そこまで笑わなくてもいいだろう、と思うくらい二人はヒーヒーと腹を抱えて気が済むまで笑い転げていた。そして、その後しばらくシンとしてから木村が口を開いた。

「でもさ、高野取締役と藤堂専務になってからうちの会社もけっこう変わったよな」

「高野藤堂ラインだろ?あの二人になってから権力構造変わったからね」

「松田はかなり恩恵受けてるだろ?」

「まあね……」

 確かにそうだ。高野藤堂ラインになって、学閥が変わったから俺はますます有利になった。役員が大きく入れ替わらなければ、ここまでとんとん拍子には進まなかったかもしれない。

「お前、監査なんて地味にコツコツ実績作っちゃってさ、次は人事課なんて来んなよ。俺の上司とか、マジ勘弁だから」

「でも順当なら次は人事課じゃねーの?」

「……そんなにうまくはいかねーよ」

「またまたー」
「またまたー」

 二人は声を合わせて言うと、それがおかしかったのか、またゲラゲラ笑った。
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