嫌われ者に恋をしました

 その日は時間が遅くなってしまったのもあって、隼人は初めて雪菜を家の前まで送った。

 雪菜は最初、「そんな、いいです」と抵抗したが、隼人は「遅いから心配なんだ」と言って押し切った。

 雪菜は学生が住むような、一人暮らし用のアパートに住んでいた。今の彼女の給料なら、もう少しいい所に住めるのに。瀬川との思い出があって引っ越せない、とか?

 女々しいのか、嫉妬深いのか、俺はどうしてしまったんだろう。過去の男のことなんて、そんなに気にすることじゃない。俺だって、過去には不倫ではないけれど結婚を考えていた女がいたんだから、人のことは言えない。

 きっと、あの非常階段で泣いていた姿があまりに印象的だったからだろう。彼女はあの時、瀬川のことがすごく好きだったはずだ。だから気になって仕方がないんだ。

 瀬川のことよりも、もっとずっと俺を好きになってほしい。俺は絶対にあんな風に泣かせたりしないから。

「今日は送っていただいて、ありがとうございました」

「うん」

「では、失礼します」

「おやすみ」

「……おやすみなさい」
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